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孝行息子が母親を殺した訳は…秋田老老介護殺人

【法廷から】

 平成22年12月、秋田市新屋の県営住宅で、寝たきりだった柳田いさたさん(92)が昨年12月、長男の健哉被告(66)に鼻や口をふさがれて殺害された。法廷で健哉被告は動機を「病院で管をつながれ、延命措置をされるのは、母親にとって酷で悲しい。楽にさせてやりたいと思った」と述べた。30年近くにわたり父親を、父親が亡くなった後は認知症の母親の介護を約10年していた孝行息子は、なぜ母親の最期を自らの手で下してしまったのだろうか。(原圭介)

老老介護世帯の増加顕著 女性に負担重く
フィリピンから…国際化する介護現場
 クッキングペーパーで押さえつけ…

 昨年12月11日午前7時50分ごろ、秋田市新屋の交番に1人の男が現れた。

 「自宅で母親を殺しました」-。

 男の話を聞いた警察官が県営住宅1階の一室に駆けつけると、寝室の中央に敷かれた布団の中で、仰向けになったいさたさんが冷たくなっていた。119番通報で駆けつけた救急隊員は、いさたさんに呼吸も脈もなく、死後硬直がみられたことで、病院に搬送はせず、午前9時28分、医師が死亡を確認した。

 逮捕、起訴されたのは息子の健哉被告。警察の員面調書などによると、健哉被告はその日の午前5時ごろ、寝ていたいさたさんの脇に正座した。手には介護に使っていたクッキングペーパー。それをいさたさんの顔にかぶせ、その上から右手で鼻と口を押さえた。

 いさたさんは1度、息を吹き返したが、健哉被告は構わずそのまま1~2分押さえ続けた。いさたさんはやがて動かなくなった。

 高熱を出した母親は…

 健哉被告は、山形県遊佐町に長男として生まれた。下には妹2人がいた。

 農業を手伝った後、塗装工として県外で働くようになったが、20代半ばの頃、父親が用水路に転落し、脊髄を損傷して車いすでの生活を余儀なくされたことから帰郷した。仕事の傍ら、父親の介護をするいさたさんを手伝い、ともに介護をするようになった。

 やがていさたさんが加齢のため体力が落ちると、床ずれの治療やおむつの交換など、力がいる世話は、柳田被告が中心になってやるようになった。

 さらに平成14年に父親が亡くなるころ、いさたさんは認知症にかかり、徘徊(はいかい)するようになる。その後、足も不自由になり、寝たきりの生活に。柳田被告はいさたさんの介護を独力でするようになる。そして、独身のまま50代を迎えていた。

 秋田地裁1号法廷で開かれた公判で、弁護士は被告人質問で健哉被告に介護の状況を訊いた。

 弁護士「母親にどんな食事をさせていましたか」

 被告「北海道のレトルト食品会社から取り寄せた10種類をミキサーにかけ、おかゆやサツマイモ、カボチャのつぶしたものを与えていました。冷蔵庫に小分けして保存していました」

 弁護士「どんな味付けでしたか」

 被告「母は甘い物が好きでした。でも砂糖は体に悪いと思い、はちみつを入れていました」

 弁護士「いつ食べさせるんですか」

 被告「朝と晩は自分が。昼はヘルパーの人が食べさせてくれました」

 弁護士「尿の処理は?」

 被告「最初はリハビリ用のパンツ。おむつをはかせるようになりましたが、自分で出せなくなり、カテーテル(管)が入れっぱなしになりました」

 いさたさんは数年前から、膀(ぼう)胱(こう)炎や(じん)盂(う)炎にかかり、40度の高熱を出しては市内の病院に3回入院した。

 その都度、抗生物質を投与され、退院。事件の2週間前も4度目の退院をしたばかりだったが、事件の前日に再び発熱した。

 往診の医師やヘルパーが薬を投与し、夕方には熱が37・4度まで下がった。だが、ゼーゼーと息は荒いままだった。

 ヘルパーが帰ると、健哉被告は、いさたさんの大好物のプリンをさじで口に持っていった。が、食べようとしない。スポーツドリンクを飲ませようとするが、飲み込まない。

 「大丈夫?」「食べないとだめだよ」-。声をかけながら、30分おきに何度か食べさせようとしたが、駄目だった。

「病院で管を通されるなら、自分の手で…」

 健哉被告の弁護士は、被告人質問で、彼が介護に疲れて殺害したのではなく、病院で管をつながれて最期を迎えるのに耐えられなかったからだ、という趣旨の言葉を引き出そうとする。

 弁護士「以前の入院と比べて、どう見えましたか」

 被告「非常に(病状が)悪いと感じました。息が荒く苦しそうだった」

 弁護士「そうした容体を見てどう思いましたか」

 被告「このままでは長くないのではないか。寿命が尽きかかっているんじゃないかと-」

 弁護士「病院に連れて行こうと思いませんでしたか」

 被告「思いました」

 弁護士「なぜ、そうしなかったのですか」

 被告「前に入院させたとき、医者から胃に管を通して栄養を入れる手術を勧められ、反対だったからです」

 弁護士「なぜ反対なのですか」

 被告「母はだんだん体力がなくなり、目は見えなくなり、耳も聞こえなくなっていました。最後の味覚まで奪われて、管を入れられて最期を迎えるのは、母にとって、あまりに酷で悲しいこと。とても見ていられませんでした」

 弁護士「そして、どうしようと思ったのですか」

 被告「延命措置はだめだ。これ以上苦しませたくない。楽にさせてやりたいと思いました」

 健哉被告は犯行後、風呂場の介助用アームに電気コードをくくりつけ、首をつろうとしたが死にきれず、交番に自首した。

 だが裁判員は、健哉被告が介護疲れの末に起こした殺人事件ではないか、という疑問を呈した。裁判員の女性の1人は問いただした。

 「長年介護してきて、自分もこれ以上苦しみたくないという気持ちはありませんでしたか」

 被告「苦しいとかやりたくないとか、そういう気持ちがあれば、介護なんかできません。でも、本当にそうか(自分が疲れたから殺害したのか)といわれれば、(介護に)疲れたこともあったし、長く続けたくないと思ったこともあります」

 酌量を求める家族、勤務先からは嘆願書も

 証人として出廷した、東京都内に住む3歳違いの妹は涙ながらに兄をかばった。

 弁護士「あなたはどれぐらい母親を訪ねていましたか」

 妹「年に2回ぐらいしか来られなかった。兄の言葉に甘えて、まかせっきりにしていました」

 弁護士「母親に手をかけた兄をどう思いますか」

 妹「不謹慎かもしれませんが、兄は愛情を持って母を介護していました。天国まで導いてくれたんだと思います」

 被告も目頭を押さえた。

 弁護士「許せない気持ちは?」

 妹「あるはずないです」

 弁護士「(山形県の)お墓に、母親といっしょに加害者の被告も入れますか」

 妹「入れます。母を愛情深く見守ってきたのですから…」

 健哉被告の減刑を求める嘆願書を集めた勤務先の会社の社長も証人として出廷した。

 被告の真面目な働きぶりを紹介し、「できるだけ早く社会にもどれるようにしてほしい」と訴えた。

 検察側は論告で、いさたさんが事件前まで食事をし、押さえられた口から息を漏らしたのは「生きようとする最後の抵抗だった」と指摘。「その命を奪った重大さは許されない」と厳しく健哉被告の行為を断罪した。

 また、被告はいさたさんの分を合わせて年金16万円、塗装工として約13万円の月収、さらに預金が約200万円あり、ヘルパーなどの支援を受け、ドライブや映画を楽しむ余裕があったとして、「ぎりぎり追い込まれての犯行でなかった」と述べた。

 さらに、進行する高齢化社会の中で、「安易に軽い刑を科せば、同様の事案が発生することを抑制できなくなる」と社会に与える影響を挙げ、懲役6年の判決を求めた。

 一方、弁護側は献身的な長年の介護や自首の事実、罪に対する自覚などを挙げて、情状酌量し、執行猶予判決を出すよう求めた。

 裁判を傍聴するうち、思い出したのは、黒澤明監督の映画「赤ひげ」。赤ひげ(三船敏郎)に「人間の一生で臨終ほど荘厳なものはない」と言われ、新米の医師・保本(加山雄三)が蒔(まき)絵(え)師の六助(藤原釜足)を看取るシーンだ。あえぎながら事切れる六助は、恐ろしい形相だった。

 誰にでも訪れる臨終は、安らかとはかぎらない。被告の「楽にさせてやりたかった」との言葉は、やがて自分にも訪れる死が怖かっただけなのかもしれない。

 一線を越えてしまったのは、認知症のいさたさんに長年寄り添い、食事や下の世話をするうち、いさたさんの命が手中にあるような錯覚が生まれたからではないか。「残されると不憫(ふびん)だ」と、子供を心中の道連れにする親の心情にも似ている。

 しかし、長年の尊い介護の努力は、最後の行為で水疱(すいほう)に帰した。深い愛があるなら、たとえいさたさんに懇願されても手をかけるべきではなかった。それが人の道だからと、被告を責めるのは酷すぎるだろうか。

 今月2日、秋田地裁で判決言い渡しがあり、馬場純夫裁判長は懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。

 馬場裁判長は執行猶予判決とした理由として、自首していることや罪を自覚していることに加え、「献身的な介護を10年も行っていたのであって、被害者に対し、深い愛情をもって接していたことは疑いがない。犯行当日に被害者がもう助からないかもしれないと思い込んだとしても無理からぬ面がある」と情状酌量した。

 もっとも殺害行為については、「医師による治療を受ければ被害者の容体が安定する可能性があり、ほかに適切な手段をとることができた。そもそも、そのような理由で人の命を奪う行為は正当化されるものでない。生命を奪うという結果を生じさせたことは重大」とも述べ、被告の殺害行為を非難した。

 厚生労働省の平成22年度高齢社会白書によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は平成20年度現在1978万世帯で全世帯の約41%。

 65歳以上の要介護等と認定された人は19年度末で約438万人。世話をする介護者が60歳以上の「老老介護」は、全体の60・8%にも及ぶ。その半数以上にあたる36・2%が70歳以上。

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新し物好きのRobin Morino が、日々感じた事、健康、音楽(カンツォーネ、シャンソン、ジャズ、ボサノバ等)、映画、小説、Photo、旅行、恋愛、社会、政治経済等について徒然なるままに書き綴ります。(独断と偏見、浅学菲才によるボロはご容赦ください)
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